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鈴木宏志先生最終講義

3月15日(金)

私が畜大にきたの2001年秋。それから20年以上の中で、最も長かった会議というのは8時間。午後2時から夜10時まで、というものでした。

試験の採点とかそういうのではなく、普通に会議。休憩はあったかもしれません。覚えていませんが。しかし夕飯の弁当はなかったのは覚えている。気がついたら10時、みたいな。

その会議の委員長が鈴木宏志先生でした。

その会議は今でいうところの多元的業績評価に関する会議。当時は単に点数化といっていたと思います。論文の業績、教育の業績、臨床の業績、地域貢献の業績、これらについて教員で異なるわけですが、内容が異なっても点数化して横並びで比べられるようにしようという目的のための委員会で、常設ではなく臨時に作られた委員会でした。

1回こっきりでおわったのか、そのあと複数回会議が開催されていたのか、じつは覚えていない。しかし重要な会議ではあったので、一定の方針が出てから、学内の先生方にご理解いただくための全学説明会がありました。たしか5番教室だったと思います。
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この会議で、はじめはたしか副学長の佐々木市夫先生がご説明されていたと思います。しかし質疑になって参加の先生方からいろいろ質問されても、佐々木先生は、「え?」「それは・・・、えーと、」みたいなしどろもどろ。

ほどなく見かねた鈴木先生が佐々木先生からマイクを取り上げて対応、説明しはじめました。

参加者からの質問は多岐に及ぶ厳しいもので、そのたびに鈴木先生は丁寧にお応えなさるのですが、しかし一歩も引かない。ギリギリ、真剣勝負。

その時私は何をしていたかというと、5番教室の端っこの方に、一般の教員のフリこいて座って、心の中で、
「鈴木先生、かっこえーなー、」
と思っていました。

これは私が畜大に来て2年目の頃だったと思います。学内の先生をまだあまり存じ上げない中で、なんとなく、
「ああ、この人について行ったら何とかなるかも。」
と思いました。

ということで、私の中で鈴木先生は、何名かいらっしゃるメンターのおひとりでした。こんな事いわれても鈴木先生にとってはご迷惑かもしれませんが。

メンターは、口でどうこう指導する人ではなく背中で教える人、やってみせる人のことを指します。鈴木先生は発生工学、私は農業経済学と分野はまったく異なるわけですが、その方から何を学ぶかは異分野でも問題ない。
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そんな鈴木先生の最終講義、当然発生工学の話題が主なわけですが、組織のこと、マネジメントの話題も少なくない。

曰く、
「4人のチームが最適。全員に目が届くので会議をする必要が無い。」
そうかもしれません。日頃から十分コミュニケーションを取っているからでしょう。

「ホウレンソウはダメ、相談ではなく提案をしなければならない。」
効率的かつ迅速に研究をすすめるためにはそうかもしれません。

「論文を書くためには、企画能力、遂行能力、論述能力が必要だが、最も低い能力に収斂する」
全くその通り。経営学の要素論では律速段階といったりします。

もう一つ、発生工学を構成する技術と領域をしめした曼荼羅みたいな図では、周辺に分子生物学(遺伝子工学)、生理学(病態生理学)、組織学(病理学)、実験動物学などがちりばめられているのですが、中心にあるのは「根性」でした。

こんな鈴木先生。見方によっては非常に厳しい方と思われるかもしれません。海外のジャーナルに論文が300本以上掲載され、natureも何本もある。もうちょっとでノーベル賞、という業績もあるそうです。

しかしご自身の主要な業績のおひとつについて、
「これについては、私が世界で一番最初だと思っている人も多いですが、私は二番です。ここに示した論文のほうが結果は不十分ですが先です。」
とおっしゃって、わざわざその1番の論文をスクリーンにお示しになる。

そういう筋を通すあたりも、メンターとして魅力を感じているところなんだろうと思います。

(仙北谷)

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